親知らず
親知らず(8番)の抜歯について
現代人の顎の大きさは食生活の変化等の影響で小さくなる傾向にあり、親知らずはすべての歯の中で一番最後にはえてくる為、正しくはえてくる場所には限りがあります。そのため骨の中に埋まったまま出て来ない場合や、横や斜めに萌出したりするケースがよく見られます。
口腔清掃が十分に行き届かずに炎症を起こしやすく、その為に体調不良時等に痛んだり腫れたりすることがでてきます。
あまり頻繁に痛みや腫れが生じることがあれば抜歯をすることも検討することになります。
CT撮影
CTは従来のパノラマやデンタル撮影では診断が困難な症例に迅速で処置を行うことが可能になり、今で歯科治療には欠かせない機器となっています。
そして3D画像を見ることにより、患者様が現在のお口の状況を正しく認識できます。
主に以下のようなケースでCTを活用しています。
1、抜歯
歯の根が湾曲、肥大、骨と癒着、神経との距離を確認できます。
2、根管治療
根管の有無、閉塞、根先病巣の大きさを診断できます。
3、歯周病
歯の根の周囲の骨の吸収の度合いを診ることができます。
4、 副鼻腔炎
上顎洞炎の有無、進行の度合いを確認できます。
5、過剰歯
過剰歯の有無、方向等を診断できます。
6、歯根破折
視認できない破折箇所を見つけることが可能です。
7、インプラント
顎の骨の厚みや高さ、神経までの距離等をしっかり診ることができますので、治療計画の作製に役立ちます。
親知らず抜歯の症例
20代女性です。最近頻繁に左下の親知らずに腫れや痛みを繰り返すようになり抜歯することになりました。
左下の親知らず(黄色い丸印)の歯の先端と下顎管神経(赤いライン)が重なっています。
これだけの情報では抜歯をすることは不可能となります。
このように実際の親知らずと神経の位置関係を2次元で表現するパノラマ写真だけでは不十分です。
この症例ではほんのわずかではありますが、歯の先端と神経は重なっておらず、離れていることが分かりましたので(矢印の部分)、抜歯を行いました。
痛くない麻酔の方法
抜歯に限らず歯科治療では麻酔はつきものです。
当クリニックではなるべく患者様に負担を減らす為に次のような方法を行っています。
1、表面麻酔を使用
麻酔の注射を打つ場所に前もって、ゲル状の表面麻酔を塗布または表面麻酔を噴霧することによって、注射針の痛みを軽減することができます。
2、麻酔薬を温める
あまりに冷たい麻酔液が注射されると、その刺激で痛みを感じる場合が有ります。
そのような場合には人肌に温めた麻酔液を使用しています。
3、細い麻酔針の使用
通常より細い麻酔針を使用することで、痛みを軽減することが可能です。
4、麻酔の部位を換える
通常は角化歯肉に麻酔を行いますが、歯槽粘膜に時間をかけてゆっくり麻酔を行うことで、痛みを和らげることができます。
歯ぐきは角化歯肉(硬く厚い歯肉)と歯槽粘膜(柔らかく薄い歯肉)の2つの部分に分かれます。 通常の局部麻酔は歯の付け根の周りにある角化歯肉に行います。この部分の歯肉は硬くしっかりしてますので、注射時は圧力をかけて麻酔を行いますので、圧力がかかり過ぎると痛みを生じることがあります。
歯の付け根から離れた歯槽粘膜に麻酔を行っています。
この部分は柔らかいため、無圧でおこなうことができますので、麻酔時はほとんど痛みを感じることはありません。
5、静脈内鎮静法
詳しくは診療案内「静脈内鎮静法」をご覧ください。
親知らずによる影響
1、親知らずが虫歯になるとその他前の歯の虫歯になる可能性が高くなります。
2、顎が小さくて、はえる場所がないため、変な場所にはえたり、顎の骨のなかに潜り、頭を出さずに炎症を起こします。
3、清掃が不十分になりやすく、口臭の原因になると考えられています。
4、上の親知らずが下の親知らずの歯ぐきを噛んでしまう為に炎症や腫れの原因になります。
(上下の親知らずの間に歯ぐきがサンドウィッチ状態になっています。)
5、上の親知らずで頬の内側が傷つく場合があります。
6、斜めにはえた親知らずは手前の歯を常に押していますので、前歯の歯並びまで悪くしてしまうことが有ります。
7、手前の歯の根を押し続けて、押された歯の根が溶けてしまうことが有ります。
下の親知らずが徐々に圧迫して、前の歯の根を溶かしてしまいました。
8、上または下のどちらかの歯がない場合には、歯が徐々にのびてきて顎の運動を制限し、顎の関節が痛くなる場合があります。
9、親知らずの清掃が不十分で歯周病になると、骨が溶けて手前の歯の根の周りの骨も溶けていく可能性があります。
矢印部分は骨が溶けているところです。このまま治療を行わないと手前の歯はいずれ抜歯になる可能性があります。
例外もあります。患者様の口腔内の状況によっては、親知らずをすべて抜くとは限りません。
親知らずの手前の歯が既に抜歯されていて、
- 入れ歯の針金をかけた方が入れ歯の安定が向上する場合
- ブリッジの支台として使える場合
といったケースでは抜歯を行いません。
現在ではインプラントが治療手段とひとつとして確立されており、インプラントがない時代よりは重要視されなくなったとは思いますが、体調などさまざまな都合によりインプラントが使用できない場合には親知らずはとても大切は歯となります。
なお親知らずを抜歯した後は入れ歯、ブリッジ、インプラントを入れる必要は有りません。
親知らずを抜いた後の注意
- 抜歯後は入浴、飲酒、過激な運動は避けてください。
- 気にして指や舌で傷口をさわらないでください。
- 抜歯当日は頻繁にうがいをすると出血が止まりません。気になる場合には清潔なガーゼや綿花を傷口にあてて 暫く(10分程度)噛んでください、唾液に少し血が混じっている程度なら心配いりません。
- 麻酔で2~3時間唇や舌がしびれていますので、 口唇を噛まないようにしてください。
- 薬は指示通り服用してください。
- 当日の食事は患部を刺激しないような食事にしてください。 辛いもの、硬いもの等の刺激物は避けてください。
- 親知らずの部分は体の構造上、粗の部分ですので、腫れやすい場所と理解して下さい。
- 麻酔が切れた数日経過しても、抜歯した側の口唇のしびれが残っている場合には 神経損傷の可能性がありますのでご連絡ください。
◆当クリニックではいままで神経損傷の患者様はお一人もございませんが、万が一の場合神奈川歯科大学付属病院または東京大学付属病院へご紹介致します。